だが、ゼロ年代、Pro Toolsの時代に特有の「空間を生かす、遠近感のない、音数の少ないサウンド」を指して「スカスカ」と評しているなら見当違いだと言わざるをえない。それは中田さんのみならずこの10年、レコーディング現場ではみんな悩んできたことなのだ。このような大変化の波に独り果敢に立ち向かった男がいる。矢沢永吉だ。矢沢はやはりPro Toolsの、異常にクオリティの高い音にロックンロールを感じなかったようだ。ちなみに矢沢は97年のアルバム「YES」以来、自身の手でデータを打ち込み、コンピュータミュージックに挑戦している。使用しているシーケンス・ソフトはCubase VSTだ。これは石野卓球も使っている、テクノやハウスなどでオナジミのソフトなのだ。通常J-POP、歌もので使用されるシーケンスソフトといえばDigital Performerが一般的だ。(中田ヤスタカ、山下達郎が使用)つまり矢沢は自身の音楽を歌ものの歌謡曲ではなく、ダンスミュージックと捉えているんだね。使用機材でその音楽的思想がみえてくる。で、そんな矢沢はPro Toolsを前にして理解した。ロックンロールは「アナログレコーディングと同義である」と。そして部下に命じる。なんとしてもSTUDERのアナログのテレコをゲットしてこい!(とっくの昔に生産中止)世界中探して来い! カネならだす! そして数日後、部下から連絡が入るのだ。「ボス、メキシコのド田舎のスタジオでSTUDER発見しました! しかもやたら状態がいいです!」 ボス「よし、5万ドルで交渉しろ」そして彼はSTUDERのテレコをてに入れるのだ。アナログ特有の歪み、圧縮、爆発、それは新作「ROCK’N ROLL」でも鳴り響いている。矢沢といえば「成り上がり」の矢沢の文脈で語られることが多いが、実は相当スタジオ・イクイップメントに精通したレコーディングアーティストでもあるのだ